有機質肥料で美味しい野菜が栽培できる
1.有機質肥料のみで野菜を育てることは簡単?
野菜などの植物は、太陽の光、水分、二酸化炭素を使って、葉緑体が光合成を行い光エネルギーを化学エネルギーに変換し酸素とブドウ糖を作り、作った有機物は体内に蓄積し酸素は放出して生長しています。
野菜の苗の根っこは、土の中から養分、水分、酸素を吸収し、植物自体の呼吸では酸素を二酸化炭素に変えて大気中に放出して生長しています。
このように、野菜などの植物は根っこから養分を吸収しないと大きく生長していきません。
土の中の養分は、大雨が降って流されたり、野菜の生長過程で消費して養分不足になってくるので、養分が足りなくなってきたら、その都度肥料を補充する必要がでてきます。
野菜を栽培するにはそれなりに大なり小なりの肥料が必要で、
- 肥料は多め:トウモロコシ、ナス
- 肥料は少し多め:キュウリ、ピーマン、大玉トマト
- 肥料は普通くらい:ミニトマト、インゲン、サトイモ、ジャガイモ
- 肥料は少なめ:エダマメ、こまつな
- 肥料はほとんどいらない:サツマイモ
というように、野菜によって施肥する肥料の量は異なってきます。
野菜に与える肥料としては、有機質肥料と化成肥料の2種類があり扱い方が異なります。
化成肥料や液体肥料は無機質なので、施肥すれば水に溶けた養分を根っこがすぐに吸収できるのに対して、有機質肥料は施肥した後に土壌の微生物に分解・無機化されて初めて根っこから養分を吸収できる状態となるので、施肥してから根っこから吸収できる状態になるまでに時間がかかり肥料の扱いが難しいです。
つまり、化学肥料は速効性の肥料(効き目が早い)、有機質肥料は緩効性(効き目が緩やか)、又は遅効性の肥料(効き目が遅い)ということです。
また、有機質肥料は、土壌の微生物が活発に活動してくれないと根っこに供給できる養分が少なくなってしまうので、有機質肥料だけで野菜を育てることにこだわっていると収穫に失敗することが多くあります。
野菜の収穫に失敗しない為の無難な栽培方法は、有機質肥料と化成肥料を併用して育てることが望ましいです。
2.有機質肥料が土壌微生物によって分解される流れ
有機質肥料を土の中に投入しても、すぐには肥料効果は現れません。
どうしてかというと、有機質肥料が土壌の微生物によって分解・無機化されなければ野菜の根っこから養分として吸収できる形にならないからです。
では、有機質肥料を土の中に投入して根っこから吸収されるまでの過程を見てみましょう。
有機質肥料(有機態窒素)は土の中に投入すると微生物によりアミノ酸に分解され、さらに分解されると無機化してアンモニア態窒素になります。
アンモニア態窒素は亜硝酸菌により酸化されて亜硝酸態窒素、亜硝酸態窒素は硝酸菌により酸化されて硝酸態窒素になります。
硝酸態窒素の状態になると根っこから養分として多く吸収できる形となります。
そして、硝酸態窒素は雨で流されたり、脱窒菌により脱窒されて気体となり大気に戻ります。
このように、有機質肥料を土の中に投入すると、
- 有機態窒素→アンモニア態窒素→亜硝酸態窒素→硝酸態窒素
という微生物の働きによる分解行程を経て養分として根っこから吸収できるので、施肥してからのタイムラグが大きいのです。
有機質肥料はそのままの状態では野菜の生長には役に立たず、微生物によって分解されて無機物になり根っこから養分を吸収できるようになるので、化成肥料のようにすぐに肥料効果が現れないと覚えておきましょう。
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3.有機質肥料の種類と特徴
ホームセンターの園芸売り場に行くと様々な有機質肥料が販売されていますが、有機質肥料を大きく分けると動物性と植物性の2種類に分けられます。
家庭菜園で人気がある有機質肥料や土壌改良が目的の有機質としては次のようなものがあります。
動物性の有機質肥料
- 鶏ふん
- 鶏のふんを発酵して作った肥料です。肥料成分は、窒素、リン酸、カリを含み、特にリン酸が多いです。鶏ふんを施肥すると、保水性、通気性が良くなりますが、発酵が不十分だと害虫や病原菌が増えることがあるのでしっかり発酵処理されている商品を選んでください。肥料の効きは牛ふん堆肥よりも早く現れます。
- 牛ふん堆肥
- 牛のふんを発酵して作った肥料です。肥料成分は、窒素、リン酸、カリをバランスよく含んでいます。牛ふんは繊維質が多いので施肥するとふかふかな土になります。肥料効果よりも土壌改良効果を期待して使われることが多いです。
- 鶏ふんと同じように発酵が不十分だと害虫や病原菌が増えることがあるのでしっかり発酵処理されている商品を選んでください。
- 骨粉
- 骨粉は、豚などの骨を乾燥させ砕いて作った肥料です。肥料成分は、窒素、リン酸、カリを含み、特にリン酸が著しく多いです。主に、リン酸を補充して、花や実着き、実の色やツヤを良くしたい時に使います。
動物・植物性の有機質肥料
- ぼかし肥料
- ぼかし肥料は、米ぬか、油かす、魚かす、魚骨、鶏骨などを発酵させた肥料です。肥料成分は、主に窒素とリン酸を含んでいます。発酵しているので肥料の効き目は早い方で、施肥後は微生物に急速に分解されないのでガスの発生は少ないです。
植物性の有機質肥料
- 油かす
- 油かすは、なたね油を抽出した時にでた搾りかすの肥料です。肥料成分は、窒素、リン酸、カリを含み、特に窒素が多いです。主に、窒素を補う時に使います。
- 草木灰(そうもくばい)
- 草木灰は、草や木を燃やして灰にしたものです。主にカリの補給で使いますが、じゃがいもや山芋の種いもの切り口の消毒にも活用できます。また、木灰の場合はアルカリ分が20~30%程あるので石灰分として酸性土壌を中和する利用方法もあります。
植物性の土壌改良材
- バーク堆肥
- バーク堆肥は、樹皮が微生物により分解され蓄積したものです。肥料としての目的ではなく、土壌改良材として土をふかふかにして、排水性、保水性、保肥性、通気性、土壌の微生物の働きを高め地力を上げる目的で使います。未熟な状態なものを投入すると害虫や病原菌が増えることがあるので気をつけてください。
- 腐葉土(ふようど)
- 腐葉土は、落ち葉が微生物により分解され蓄積したものです。肥料としての目的ではなく、排水性、保水性、保肥性、通気性、土壌の微生物の働きを高め土壌改良材として使います。葉脈が残っているような未熟な状態なものを投入すると害虫や病原菌が増えることがあるので気をつけてください。
- くん炭
- くん炭は、もみ殻を蒸し焼きにして炭にしたものでミネラルが豊富な資材です。肥料としての目的ではなく、土の通気性、保水性、保肥性を向上させる土壌改良材として使います。くん炭の使い方は、土に混ぜたり土の上に敷いたりして使い、地力を上げる効果があるとして家庭菜園で最近注目されています。
おすすめの有機質肥料と使い方は?
一般的に、有機質肥料を使って野菜を栽培する場合は、鶏ふん、骨粉入り油かす、ぼかし肥料等を土に混ぜ合わせて使います。
施肥する目安としては、1m2当たりに対して、
- 鶏ふんを使う場合:約500g
- 骨粉入り油かす、ぼかし肥料を使う場合:約150g
を土に混ぜ合わせてください。
有機質肥料は種類によって異なりますが、1kg当たり200~600円くらいでホームセンターで購入できます。
また、排水性、保水性、保肥性、通気性を向上させる為に、バーク堆肥や腐葉土を1m2当たり約10L投入して土壌改良をして土をふかふかにすると根っこの張りがよくなるのでおすすめです。
4.有機質肥料のメリットとデメリット
上記の説明を読んでもらうとわかりますが、有機質肥料は土の中にいる微生物が有機物を分解して、初めて根っこから養分を吸収できるようになるので、野菜栽培の経験を積まなければ扱いが難しい肥料ですよね。
でも有機質肥料のメリットがわかれば、有機質肥料を使って家庭菜園を始めてみようと思えるようになるので、有機質肥料を使うメリットとデメリットをいくつか挙げてみます。
有機質肥料を使うメリット
- 土の中に有用微生物の数が増え地力が上がる
- 色つやが良く、甘い野菜が収穫できる
- 肥料効果が少しずつ現れ長い期間穏やかに続くので肥料の無駄がない
- 土のpHが酸性になりにくい
- 土が硬くなりにくい
- 根っこを傷めにくい
有機質肥料を使うデメリット
- 微生物の力を借りて分解させるので肥料効果が現れるまでに時間が掛かる
- 肥料成分が曖昧で品質にばらつきがある
- 化成肥料よりも価格が高い
- 臭いがある
- カリが少ない
このように、価格や臭いが気にならなければ野菜にとってメリットはいくつもあるので有機質肥料を使って育てた方がいいです。
但し、有機質肥料は施肥してから肥料効果が現れるまでに時間が掛かるので、元肥(初めに投入する肥料)は有機質肥料、追肥(栽培中に投入する肥料)は有機質肥料と化成肥料を混ぜて使うというように使い分けることをおすすめします。
私の経験では、化成肥料で肥料の3要素(窒素、リン酸、カリ)を与えて野菜を育てるよりも有機質肥料を与えて育てた野菜の方が色つやが良く甘みが強い傾向があります。
美味しい野菜を育てるには有機質肥料を使うのがいい方法ですが、肥料切れをして野菜の生長が衰えてきた時に有機質肥料を使っても有機質を活かすも殺すも微生物次第なのですぐに肥料効果が出ないので注意して使ってください。
また、有機質肥料だから安全だと思って過剰に施肥すると養分のバランスが崩れますし、有機質肥料でも与えすぎは害虫が発生することがあるので気をつけて栽培してください。
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